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よつ葉牛乳が草のことを教えてくれました

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よつ葉牛乳が草のことを教えてくれました

草のこと

日本は農耕民族のせいでしょうか、草からイメージするものは雑草であり除草(草とり作業)であって、全く邪魔者か、もしくはどうでもよいといった位置づけをされ続けています。田舎育ちの私などは、春のレンゲ、初秋の赤マンマの美しさには忘れがたく郷愁を感じるものの、夏休みの庭の草とりほどいやなものはなく、農道の草は露にぬれていて朝学校につくまでに足がびしょぬれになって、つめたく、これもいやなことのひとつでした。

 

近所の農家の仕事もほとんど草とり仕事のように思えて、草だけとってしまう薬が出来たらなんと良いことかと子ども心に思ったものでした。そんな私が、人生観や生き方を変える程のショッキングな草の話に出会いました。それも一度ならず二度です。

一度目は20年前、このよつ葉牛乳運動を知り、酪農の学習をはじめてすぐでした。その時の師は、よつ葉牛乳運動をはじめられ首都圏にはじめて北海道牛乳を持ち込まれた酪農家の岡田米雄先生でした。

二度目は10年前、自然農法の福岡正信先生に出会い、迷うことなく“砂漠に種をまく人の会”を設立した時です。20年前の私がはじめてよつ葉牛乳を飲んだ時、味より香りに驚きました。少々の甘さを含んだ清々しい香りでした。

岡田先生、「フレーバー香というのですよ。健康な牛が良質の草をたくさん食べてはじめて出る香りです。」私「草ですか」、先生、「そうです。草ですよ。牛飼いは草に始まって草に終わるというくらいですからね。牛は草を食べさせないと死にますよ。そして、食べたその草はミルクとなり肉となるのです。つまり草は牛の体を通って蛋白質を提供してくれるのです。」

思えばどこかできっと習ったことのある話でした。あのどうでも良いと軽視し続けていた草が牛の生命綱であり、私達の蛋白質源になっているとは驚きでした。1972年私は日本の酪農最適地と言われる北海道の十勝にはじめて出かけました。草がどのくらいどんな風にあるのか、ほんとうにその草を食べている牛が健康なのか、見たかったのです。

帯広空港から約2時間豆畑、芋畑、牧草地とみごとなグリーンベルトの中を走り上士幌の育成牧場につきました。もうまわりは牛以外何も見えず、ただみどりの牧場でした。牧場の中を車で一時間走ってもまだ、牧場の中でした。車をおりると牛たちは人なつこく駆け寄って来て、汚い私の手をなめました。

岡田先生「日本には100万haぐらいの草地がありますが、そのうち54万haは北海道ですよ。何故北海道が酪農最適地かということは、2,3日この地を歩いているうちにしっかりと理解できます。そうそう余談ですけどね、もし食糧不足の時が来てもですね、人間と牛は共生していけるんですよ。牛は穀類がなくても草さえあれば生きられますから人間と米と麦を競って食べあうという間柄ではありませんか、アッハハハ…。それに牛はとてもナイーブな生きもので人間以上にストレスからの病気になりやすいのですよ。牛の健康を保つにはどんな環境が良いか自然とわかるでしょう。健康な牛でないと良い乳は出ませんね。」

「健康な牛でないと良い乳は出せない」と言われる岡田先生の言葉は、母乳だけを頼りに子育てをした私にはよくわかりました。

先生「牛が健康であるためには、別の言い方をすると牛が健康かどうかは、そこの酪農が土と一体化した経営かどうかで決まります。健康な牛は健康な生きた土から生まれるのですからね。」

私「土と一体化ですか?」

先生「牛づくりは土づくりという格言は北海道には今も生きています。牛と土、この二つを分離させると乳牛もだめになるし、土も死んでいきます。つまり乳牛の糞尿が土に還元されて生きたいい土がつくられる。そうするとその土からは牛にあったいい草(餌)が生えてきて、その草を食べた牛は健康でいい牛となります。牛がよくなると土も草も良くなるという関係、これを土との一体化と言っているんですよね。」

私「簡単なことですね。」

先生「いいや今の日本酪農では一番難しいことです。それはひとまずこちらに置いて、いい土と草が出来たら、牛を自由に放して自分の体の健康状態に合った餌を自分で選ばせることです。」

私「一番難しいという意味がわかるような気がするのですが、まだわかりません。」

先生「牛は一頭一haの草地が必要とされていますから、狭い国土の日本では、特に時価の高いところや、都市近郊では、放牧して、牛を健康的に飼って良い乳を搾るというような酪農はもう出来ません。牛と言わず人間も、又牛乳だけでなくすべての食べ物、つまりすべての生命活動は土を離れては健康ではあり得ないのだと、百姓になってはじめてそれも埼玉県で土地のない都市型酪農を経験してしみじみ思い知ったというところですが、みなさんはどう思いますか。」

理屈抜きに全くその通りだと思いました。

けれど今の自分の生きているところはと見れば、土は公園の花壇で見るくらい、雨の日でもハイヒールで歩ける道路に何の違和感も持たなくなっている日常生活です。
先生の問いかけに返事をするにはあまりにもかけ離れた現実に声もなく、それより我と我が命に対して、いろいろ言い訳をしたり、なだめ、慰め癒すことをしてやらないと持ちそうにないなあと実感したことをおぼえています。

先生「話を大切な土と草にもどします。広大な草地を必要とする酪農にとって、地価も安く、広い土地が確保出来る北海道は酪農適地です。十勝は一日の気温差が大きく、そのことによって豊かな草が育ちます。
又日照時間も道内屈指に長く、冬の厳寒は土が凍結して土壌の殺菌をしてくれます。夏の冷涼で湿度の少ない北海道の気候は汗腺のない牛に向いています。

草つくりは土つくりでもありますが、日本の土壌は火山灰地で、ヨーロッパのように牧草に最適な土とは言えません。

従って酪農家が牛の排泄物を思慮深く使って土壌の改良を絶え間なく続けるという努力が求められるのです。
牛は生来とてもおとなしい動物ですが時に柵をやぶって脱走するようなことがあります。それは牧場が狭くて草が足りなかったり、又草の管理が悪くおいしくないような時、柵の外に好みの草を見つけると、あのトゲトゲの鉄条網の柵を突破してまで、その草を食べに行くのです。そのくらい牛にとって草は生命そのものなんですね。そうそう北海道は梅雨がないですね。これは冬場の餌である乾草づくりにはありがたいのですよ。

五月、六月の一番草は最高に良質と言われ、農家の神経はこの草の収穫に集中します。良い乾草は、刈って干して収納する一日でし終えることが絶対条件ですから雨は禁物です。」

私「自然に任せ、牛と草と土が循環されていると牛は健康で良い乳を出すのですね。」

先生「もう一つ大切なこと、牛飼いは牛に信頼されて不安を与えない事です。
牛は人間の心を心底見抜きます。人も牛の気持ちがわからなくては…。
そのためには謙虚な心で牛に教えてもらうことです。」

 



 

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