ホンモノの牛乳の味
ホンモノの牛乳の味
日本の牛乳はそのほとんどが「ホモジナイズ」されています。ホモジナイズとは牛乳の脂肪分を細かく砕くことです。脂肪分は脂肪球として牛乳の中に含まれていますが、ホモジナイザー(均質機)で直径二マイクロメーター以下に細かく砕き、こうすることで脂肪分と水分が混ざり合い、分離しなくなるのです。
ホモジナイズしない場合、牛乳の上に大きな脂肪球が集まってクリームの層ができます。
ホモジナイズすることで、このようなことが起きないように調整します。これで均質性を保てるようになりますが、一方で脂肪球がとても細かくなるため、消化吸収がよくなりすぎ、人によってはおなかを壊したり、アレルギーの原因になったりします。
また、ホモジナイズすると高温殺菌がしやすくなります。日本の牛乳のほとんどが一二〇度から一三〇度という高温で二秒間ほど殺菌されますが(超高温殺菌)、この方法は、ホモジナイズ牛乳にしか使えません。
これは、ヨーロッパでは長期保存用の特殊な牛乳以外には使われていません。 高熱処理でタンパク質が変性してしまう問題もあります。
一方、ノンホモ牛乳があります。 ノンホモとはノン・ホモジナイズの略です。これは生乳のままなので、脂肪球の大きさにばらつきがあります。大きな脂肪球が表面に浮くため、放置しておくと上部にクリームの層ができます。自然のままの脂肪球が保持されているので、そこに含まれている栄養をそのまま摂ることができます。
またホモジナイズ牛乳に比べ、おなかを壊したりアレルギー反応を起こす人は大幅に減ります。ノンホモ牛乳は低温殺菌 (パスチャライズ)です。
低温殺菌、ノンホモ牛乳こそが、酪農先進国であるヨーロッパ諸国で通常飲まれている牛乳で、私たちが飲用するのに最適な牛乳ですが、日本ではノンホモ牛乳は1%にも満たないでしょう。
私たち神楽坂123ファームが推すのは、もちろん不必要な手を加えないノンホモ牛乳です。
しかし、このような牛乳を日本の多くの酪農家が量産できる体制はまだ整っていません。
生産者側にも消費者側にもその下地ができていないのです。
ホモジナイズして超高温で短時間殺菌をすると、作業効率がいいので、日本ではそれが基準のようになっています。
たとえば、牛一頭の重さはだいたい六五〇キロぐらいですが、私たちがこの運動を始めた昭和四七(一九七二)年ごろは、一頭の牛から年間四〇〇〇〜五〇○○リットルほどの牛乳が搾れました。それが改良に改良を加えて、今では一〇〇〇〇リットルが標準だというのです。
日本の牛乳は量と乳脂肪分を基準に価格が決まります。一頭の牛からたくさんの牛乳が採れ、その乳脂肪分が多いほど利益が上がるわけです。ですから、多くの酪農家は乳脂肪分の高い乳をたくさん出させるために、濃厚飼料を使います。
濃厚飼料は乳脂肪分と乳量に着目して配合された飼料です。牛乳の味や、牛の健康は二の次です。
ヨーロッパの酪農では、このような飼育はしません。ヨーロッパの酪農には長い歴史があり、食文化として重要視されているため、おいしく安全な牛乳を作ることが最優先されてきました。しかし日本の酪農は明治のころから急に発達したもので、生産者自らが時間をかけて、歴史と共にその味や質を育てたわけではありません。おいしい牛乳とは何かをよく知らずに、酪農が始まったのです。だから味よりも量や乳脂肪分が優先され、効率優先の牛舎で飼うことになりました。おいしい牛乳は健康な牛からしか生まれない――そのことを実感をもって知る機会がわが国の生産者にはありませんでした。
おいしい牛乳を作るというのは、現状ではとても難しいことです。消費者がそれに見合うお金を払っておいしい牛乳を買ってくれるのであれば作れるでしょうが、そのような知識がなく、牛乳は安いもの、安ければ買うという消費者意識が定着してしまいました。
これでは、おいしくて安全な牛乳が作られなくなってしまうのも仕方のないことかも しれません。
だからこそ、どうしたらおいしくて安全な牛乳 を飲めるの か、そういう牛乳を息子に飲ませるにはどうすればいいか、私は岡田先生から真剣に学びました。